着輦祭

25.05.10

東京・神田明神で行われる神田祭は、日本三大祭のひとつに数えられる格式高い祭礼です。
その中でも、もっとも荘厳で見応えがあるとされるのが「神幸祭(しんこうさい)」。
この神幸祭の最後を締めくくる儀式が「着輦祭(ちゃくれんさい)」です。

神幸祭は、神田明神に祀られる三柱の神々──大己貴命(おおなむちのみこと)、少彦名命(すくなひこなのみこと)、平将門命(たいらのまさかどのみこと)──を神輿と鳳輦に乗せ、氏子108町を巡る壮大な巡行行列です。

この日、早朝の8時前に発輦(はつれん)した行列は、太鼓や笛の音に導かれ、木遣りの声とともに都心の町々を進みました。約30キロに及ぶ道のりを、丸一日かけて練り歩き、夕方には再び神田明神へと戻ってきます。

夕闇に包まれ始めた境内では、祭のクライマックスとも言える「着輦祭」の準備が整えられています。
鳳輦と神輿が整然と本殿前に並べられ、氏子たちが息を整える中、神職による厳粛な神事が始まります。

この「着輦祭」では、巡行を終えた神々へ感謝を捧げるとともに、氏子の町々を無事に巡行できたことを神前に報告します。
神輿の前に正座し、静かに祝詞が奏上される様子は、日中の華やかさとは対照的な静けさを湛え、神事本来の厳かさを強く感じさせます。

最後には、木遣りの唄声が境内に高らかに響き渡ります。
その音色は、町と神を結ぶ絆を感じさせ、見守る人々の胸に感動を刻みます。
この「着輦祭」をもって、神幸祭は幕を閉じ、神々は本殿へと戻られます。

しかし、その余韻は、夜の神田明神に静かに、そして力強く残り続けます。
神田祭は、単なる伝統行事ではありません。

現代の東京に生きる私たちと、神々とのつながりを確かめる、大切な祈りの時間でもあります。
「着輦祭」は、その集大成として、祭を締めくくるにふさわしい、心を揺さぶる瞬間なのです。